『イチローは外すべきだと思っていた』
今大会のイチローは不安定だった。
だから、僕は彼をスタメンから外すべきだと思っていた。チャンスが出来るのはいつもイチローが凡退した後だったし、右翼での守備が多少緩慢に思えるときもあった。チャンスを迎えては悉く凡退していく彼に対し、当初持っていた期待めいたものが冷めるのを感じていた。
それでもチームは勝ち進む。そして、イチローは適度にヒットを打ち、芳しく無い成績でありながらも一番に座り続けていた。
だからこそ巡ってきた、今日の試合の、彼の一時。
それは異常でありながら平静で、危うさを持ちながらもバランスを保っている、どこか綱渡りのような緊迫感と刺激を携えた打席だった。
それは届きそうで届かなく、だからこそ砕かれそうになっても踏みとどまった故に、何故か回ってきた実に不思議でリアリスティックな機会だった。
まるで全てが彼の為にあったかのような、そんな一瞬だった。
イチローの不調も、それに逆らうように勝ち上がり続けたチームの足並みも、全ては彼の手の上でのダンスだったのではないかと錯覚してしまうような、そんな一打だった。
ずるいな、と僕は思う。
それは卑怯に思えるくらい格好良く、涙を流しそうになるくらい色んなものを動かした。
まるで全てが誰かの為に存在しているような、そんな一時。それを見るたびに、僕は凡人なんだと痛感する。
でも、ことにスポーツにおいてそんな存在が居ることは、どこか幸せなことなのではないかと、少し思った。
(『アンニュイな日々』 3月24日付け記事)
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だから、僕は彼をスタメンから外すべきだと思っていた。チャンスが出来るのはいつもイチローが凡退した後だったし、右翼での守備が多少緩慢に思えるときもあった。チャンスを迎えては悉く凡退していく彼に対し、当初持っていた期待めいたものが冷めるのを感じていた。
それでもチームは勝ち進む。そして、イチローは適度にヒットを打ち、芳しく無い成績でありながらも一番に座り続けていた。
だからこそ巡ってきた、今日の試合の、彼の一時。
それは異常でありながら平静で、危うさを持ちながらもバランスを保っている、どこか綱渡りのような緊迫感と刺激を携えた打席だった。
それは届きそうで届かなく、だからこそ砕かれそうになっても踏みとどまった故に、何故か回ってきた実に不思議でリアリスティックな機会だった。
まるで全てが彼の為にあったかのような、そんな一瞬だった。
イチローの不調も、それに逆らうように勝ち上がり続けたチームの足並みも、全ては彼の手の上でのダンスだったのではないかと錯覚してしまうような、そんな一打だった。
ずるいな、と僕は思う。
それは卑怯に思えるくらい格好良く、涙を流しそうになるくらい色んなものを動かした。
まるで全てが誰かの為に存在しているような、そんな一時。それを見るたびに、僕は凡人なんだと痛感する。
でも、ことにスポーツにおいてそんな存在が居ることは、どこか幸せなことなのではないかと、少し思った。
(『アンニュイな日々』 3月24日付け記事)
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